傾き屋

とくにないです。

響け!ユーフォニアム3 第一話感想

※本記事は「響け!ユーフォニアム」原作小説最終章までのネタバレが含まれています。アニメのみ視聴されている方はご注意ください。

#イントロ

この作品が始まるのを待ち遠しいと思う一方で、これで終わってしまうなら3期なんてこなければいいという気持ちもあり、複雑な感情を抱えたまま迎えた4/7ですが、約5年の年月を経て再びテレビの中で動き出した面々を見ると感慨深いものがあります。

#プロローグ

校舎前での勧誘演奏シーン。
原作のプロローグでは、“先生”が北宇治に赴任して三年目のこととして書かれていました。
このシーン、小説だからよかったもののアニメという媒体でどうやって誤魔化す(?)のか楽しみにしていたんですが、わりと最近の流行曲(といっても七年前ですね)を流してみたり、まだ入部してないはずの青リボン部員が吹いているシーンを入れていたりと巧妙に隠して描かれていて面白かったです。

#黒江真由

全体的に丁寧に原作をなぞっている中、一点だけ重要な改変箇所があって驚きました。それはどこかと言うと、吹奏楽部の活動方針を決めるシーンです。『全国金賞を目指す』か『楽しい部活を求める』かを多数決の挙手で決める場面。北宇治は強豪校であり、わざわざ入部する面々は前者を選ばざるを得ないことを充分に認識しているはずで、あえて後者を選ぶ人間はいないと思われます。ただし黒江については、この後何度もオーディションを辞退したり、『楽しければいい』という意思を表明したりしています。
※オーディション辞退については、「その方が全体の調和がとれて結果的に高いパフォーマンスが発揮できる」という考えがあるのかもしれませんが、推測の域を出ません。

問題の挙手シーン、原作ではその直前に黒江の紹介シーンがあり、確かにその場に存在しているものの黒江本人の描写はなく、その後もこの場面に関する言及は一切出てきません。
作中後半になって久美子との対立(?)が進んでいくと、このとき黒江がどんな選択をしたのか一層興味深いものとなっていきます。もし挙手をしていたなら、自身を抑えてでも別の選択ができただろうし、久美子からその点を指摘されたら反論しづらいと思います。
なので、アニメこのシーンがどう描かれるのか、もしかしたらひっそりと一人だけ挙手してないところが映るのではないかと期待していました。
しかし、アニメではこの点が改変され、「意思決定時には黒江真由は存在しなかった」ことになりました。この改変によって黒江は今後の行動に対して責を追うことなく、ある意味自由に振る舞うことが許されることになります。それがどんな意味を持つのか、あるいは原作以上に踏み込んだ意思を見せてくれるのか、とても興味深いです。

 

#余談
改変と言えば、もう一点どうしても言っておきたいことがありまして、原作では『黒のハイソックスに包まれた脚』と書かれており表紙イラストでもおみあしが確認できるのですが、アニメでは(去年のキービジュアル時点でわかっていましたが)黒タイツなんですよね。これは多分、久美子と対になるラスボスとしての田中あすか成分を強調するためのデザインなんだと重々理解はしているのですが、それでもなんというか私は黒ハイソックスの黒江真由が見たかったのでこの点非常に残念です。

Twitterの「鍵アカウントのツイートが公開されてしまう」噂について

今更ながら。


先日(11/5)こんな注意喚起を見かけました。



■最初に思ったこと
・眉唾
・「前々から注意喚起」されてたの?
・アカウント作成は20年で新しいけど、ツイートのことpostと言ってるからわりと古参ユーザ?



■考えられること
①設定次第では鍵アカウントのツイートが読めてしまう(現在進行形)
②設定次第では鍵アカウントのツイートが読めてしまうタイミングがあった(過去形)
Twitter側の不備で、一次的に鍵アカウントのツイートが読めてしまうタイミングがあった(過去形)
④ツイ主の勘違い
⑤ツイ主のアカウントのみ発生した不具合




正直、①〜③だったら他の報告が上がって燃え盛っているはずなのに、この人以外の報告を見つけられませんでした。
(数名ひっかかりましたが、前後ツイートを読むと勘違いしてそうなので除外)
もしTwitterの仕様が原因だとしたら、被害報告がないのはちょっと不自然だと思います。




■検証
自分のアカウントや周囲の鍵垢ユーザーで確認したのですが、再現できませんでした。
※もし体験した方がいましたら、連絡もらえると幸いです。



■仕様確認
21年11月8日現在のTwitterの仕様やヘルプを読む限り、「鍵垢のツイートが特定条件下で公開される」と読み取れそうな内容は見つけられませんでした。

一度も公開していないツイートが検索結果に表示される場合はどうすればよいですか?

>ツイートを一度も公開していない(常に非公開にしていた)場合、ツイートの内容がTwitterやその他の検索エンジンに表示されることはないはずです。


Twitterのトピックについて
>ツイートが非公開の場合は、フォロワーのみトピックを見ることができます。


Twitterの不具合
Twitter運営側の問題ですと、以前(2019年1月)Android環境で「何らかの設定変更をすると鍵が外れる不具合」がありました。
Twitter for Androidにおける非公開ツイートに関する問題について

21/11/08現在、公式(英語垢、TwitterJPどちらも)アナウンスはありませんが、
もし今回の件が不具合ならば、今後報告があるかもしれません。



■やっぱり勘違いでは?
そもそも、「トピックス」の設定は、ユーザー本人のタイムラインに表示する情報を制御するためのものであり、フォロワー側に見せる情報を管理する設定ではありません。「鍵垢のツイートが見えてしまう」問題が起きていたとして、この設定を変えることで解決できる、というのはおかしいと思います。

また、ツイ主がこの設定を変更したことによる変化を検証したようには見えません。


これは何の根拠もない推測ですが、
ツイ主が言いたかったのが「フォローしている鍵垢のツイート」が「トピックス欄に表示された」だとすると腑に落ちるんですが、どうでしょう。バズったためかしばらく反応は期待できませんが、追々確認できればと思います。

あるいは、この方のみ特例で発生した不具合である可能性は否定しきれません。(しかし検証もできません)



■尾びれ
今回の件への反応を見ていると、
「鍵垢に対して公開垢がリプライすると、その内容が推測できて危険だ」という話が今回の問題と混ざっている人がいました。放っておくと尾びれが大きくなりそうなので、念のため書いておきます。

冬の奥羽山脈を徒歩で歩くということ

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1411336.html
↑これの件です。


ブコメで「海は?」「スマホの充電は?」とか言ってる人、まず企画概要を読んでください。

https://readyfor.jp/projects/yuwa1025



■いいたいこと

>114  1月22日(土) 仙北市盛岡市(45.岩手県) 43km


秋の奥羽山脈越えをやったことかある身としていいたいのは、

・山の徒歩43kmを1日というのは難しい
・防寒対策しないと手足がしぬ
・休憩しようとしても屋根のある場所がない(車のトンネルくらいしかない)

ということ。
ここ以外にも「リタイアしようとしても十キロ単位でなにもないポイントがあり、冬の荒野で凍える危険性が考慮されてない」のが危ない、計画が甘いように思いました。


※以上殴り書き。あとでちゃんと書きます

冬の奥羽山脈を徒歩で歩くということ

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1411336.html
↑これの件です。


ブコメで「海は?」「スマホの充電は?」とか言ってる人、まず企画概要を読んでください。

https://readyfor.jp/projects/yuwa1025



■いいたいこと

>114  1月22日(土) 仙北市盛岡市(45.岩手県) 43km


秋の奥羽山脈越えをやったことかある身としていいたいのは、

・山の徒歩43kmを1日というのは難しい
・防寒対策しないと手足がしぬ
・休憩しようとしても屋根のある場所がない(車のトンネルくらいしかない)

ということ。
このあたりの計画が甘いように思いました。


※以上殴り書き。あとでちゃんと書きます

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』感想

ネタバレあります。あしからず。

 

 

所感

冒頭から胸が熱くなる作品でした。

郵便の優位性が失われた時代、電化されゆく街の背景からの入り方は、この作品が一人の少女に視点をあてたドラマに留まらず、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という人物の伝記なのだろうという予感を強めてくれました。

 

その予感は、「思い出」として挟み込まれるエピソードや、実際に島を訪れるという形で物語られてゆきます。ヴァイオレットが名を残した証として、その島でのみ発行されているアイテムが出てきたこと、彼女のしぐさが今も生きていることに、これまで作品を追ってきた人間として、最大限の喜びを得ることができました。

 

最後、暗闇の中を独り往く彼女の姿に、本人と、あるいは想いを託した作り手達の強い意志を感じずにはいられません。
失礼な話ですが、私は鑑賞を開始して数分間、作品外のことが頭をよぎって鑑賞に集中するまでに時間を要してしまいました。

少しだけ、グーで殴りたい気持ちはなくもないですが、ひたすらに美しい作品を創り上げてくれたことに感謝の念が絶えません。

良い物語をありがとうございました。

 

余談(各キャラについて)

以下、各キャラクターについての余談です。

 

社長

社長もとい、過保護お父さん。

少佐が生きているって確証がないままにヴァイオレットちゃん(う゛ぁいおれっとちゃん と発音する)に先走って伝えてしまったり、筆跡だけで少佐だと確信してしまったり、どうかと思うところは多々あれど、総じて「良い人」でした。エンディング、語りかけた隣の場所に誰もいないことに気付いてしまうシーンは、一緒になって感極まってしまいました。そうだよねお父さんだもんね……。

 

(ところで気になったんですけど、少佐って左利き設定でしたっけ?筆跡で分かるということはそういうことだと思うんですが、だとすると隻腕生活で細かい工作ができるのも納得できます)

 

少佐

もとい、大馬鹿野郎。

あの叫びが、本作最高点だということに異論はないと思います。

怒りとも悲しみとも言えぬ愛情の籠もった咆哮は、思わず拳に力が入ってしまいます。

 

閑話休題

少しだけ原作の話になりますが……原作小説では、戦後の少佐がすぐに戻れない理由・設定が示されており、だからこそ再会に向けたストーリーに説得力があり、感動に結びついたと思っています。その点で劇場版は、その設定がスポイルされていて、会いに行けない理由をただ個人の問題としていて、些かの不満が残りました。

見方を変えて擁護すれば、彼もまた「軍人」という鎧の中で生きることを強いられてきて、そこから解放されたばかりの彼の心は、かつて親子三人でブーゲンビリアの花を眺めたころの精神だったのかもしれません。

だとしても、ひとまわりも年下の女の子にああまで言わせて動かないのはお前な……という気持ちはとてもたくさんありますが、とりあえず彼女が幸せになったからこのへんで勘弁しておいてあげます。

 

兄上

ディートフリード大佐、あるいは本作のMVP。

戦争に関わった三人の内、唯一贖罪を果たせた人だと思います。それも、残りの人生を鎖に繋ぐこととと引き換えにして救われるという、本当に救われない御方です。

ヴァイオレットとの傷の舐め合いコンビ、船中での会話は、それまでの張り詰めた空気が弛緩したところが見えて、謎の安心感がありました。もし少佐が現れなかったらどうなっていたのか、とても気になります(特典IFルート未入手勢です)。

 

ユリス

と手紙と電話と本音。

 

本作のテーマとして『伝えることの難しさ』というものがあると思います。だからこその代行業であり、あるいは手紙が、ヴァイオレット・エヴァーガーデンがあります。

そんな本作で、「想いを伝える」という目的のため、ドールであるアイリスは自身の存在理由である手紙ではなく、商売敵である「電話」という手段を取ってユリスの想いを伝えさせました。その構図の美しさは、生者と死という要素を抜きにして、本作で最も美しいシーンだったと思います。

それでも、現代を生きる私達は知っています。手紙より便利な電話、メール、SMSが跋扈する世界においてもなお、未だ替えの効かない手段であり、多くの人に愛され用いられていることを。

何より、冒頭に映し出された幾重にも積まれた手紙の山が、その意義を雄弁に語っていたと思います。

 

最後に

BGMの盛り上げが過剰だったり、手紙が宙を舞いすぎだったり、少佐が少佐で少佐だったり……と、アラを探せばいろいろあると思いますが、冒頭で申し上げたとおり本作はヴァイオレット・エヴァーガーデンの伝記であり、事実に対して文句を言うのは筋違いでありましょう。

二人が良き結末を迎え、先の世界でも語り継がれている。それだけで充分なのです。そういうことにしておきましょう。

完結まで辿り着けたことを本当に喜ばしく思います。素敵な作品をありがとうございました。

 

『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』感想

※この記事には「誓いのフィナーレ」「リズと青い鳥」「原作第二楽章まで」「立華編」のネタバレが含まれています。原作最終楽章の内容には触れていません。

 

観てきましたユーフォニアム

初日に休みをもらって朝イチに観るくらい楽しみにしていたんですが、それに応えてくれる作品でした。

■構成

本作は、黄前久美子2年生4〜8月の時系列を扱っています。「リズ」は同じく2年生時の4,5〜8月の話ですが、ある一点において異なる展開をしているため、おそらくパラレル時空となっています。そのため、本作は「リズ」におけるのぞみぞの成長とは無縁に進められています。

 

■初見の感想

「めちゃくちゃ端折ったな」「初見の人にはオススメしがたいな」の2点でした。

原作では久石奏と同じくらい頁を割いている有能メガネトランペッター小日向夢の名前が12月に公開された予告になかったことから、彼女のエピソードが丸ごとカットされることは充分に予測できていました。

同じように、「リズ」の繰り返しを避けるために(正確には違う展開になるんですが)のぞみぞの葛藤もスルーされるんだろうなというのも分かっていました。

でも、その上で、各エピソードに回す時間がちょっと足りなかったなあと思うところが多かったです。

具体的には、コンバス師弟の結成(すごく楽しみにしていた……)とか、加部ちゃん先輩離脱の伏線とか、そして「なつかな」とか「なつかな」とか。

そういうわけで、今回はユーフォとしては初めての完全新作だったはずなのに、今までの映画の中で一番「総集編」っぽさが強く出ていたような気がします。いろんな要素がファンサービス、ノルマのように浮いて見えてしまったところがありました

ではそうやって削った時間を何に当てたかといえば、もちろん久石奏。

 

そう久石奏。

もう原作読んだ時点で世界中が負けてしまった久石奏の銀幕デビューですよ。初登場の登校シーンは、久美子の「響け」の演奏が一気にかすんでしまうレベルの破壊力がありましたね。

本作は正しく、久石奏のための100分だったと思います。

予告の時点でフォーカスされていた「頑張るって何ですか」という問いこそが本作のテーマであり、その答えを久石が得るまでの物語だったと私は受け取りました。

努力の量か、質か。実力か、調和か。

かつて久石が否定された努力を、北宇治、あるいは黄前久美子は認めてくれるんじゃないかという期待と怯えが根底に伸びたまま、話が展開されていきました。作中では久美子の説得によって言いくるめられてしまいましたが、実際のところ答えのない問いですから、彼女は来年以降、久美子の居ない北宇治で再び同じ問題に直面することになると思います。そのとき自分自身に、あるいは後輩の誰かにどんな答えを出すのか、そこまで描いてもらえたらいいのになあと思うばかりです。

久美子の感情、「認められなくても、それでも進むんだ」という真っ直ぐな熱量が久石に届いたのは、久美子が自分と同じで、形だけの努力に価値を見出さない人間だと認めた上で、その上で見つかる何かに期待したからだと思っています。だから久石、北宇治に入って本当によかったなあと親心マックスになります。

なお、この久石と久美子の舌戦は、原作ではあすか先輩化が進む久美子の真っ黒さ全開な心理戦が繰り広げられているのですが、とってもマイルドになっていましたね。オーマエちゃんも光のユーフォ奏者としての側面が強くて、まあ映画だしなと納得しましたが、原作のえげつなさ最高なので未読の方はオススメします。

 

■なつかな/くみかな

本作で最も残念なのは、ユーフォ三人娘の関係性が「くみかな」オンリーになってしまった点です。特に夏奏に関する描写が相当カットされていて、なつかな原理主義者の私は非常に悲しいです。

このふたり(なつかな)は、「下手な先輩」に対する感情の置き所を見つけるまでにぶつかり合って、でも黄前ちゃんみたいにうまく距離感を得られないまま着陸する、おいしい関係性に落ち着くはずでした(原作)。久石のやらかしたことにしっかりとケジメを付けさせつつ、直後にフォローをいれて包み込んであげる夏紀先輩の優しさと、それに甘えて悪態をつく久石の二人になるはずだったのに、そのあたりの描写がカットされてしまったせいで、久石が心を開いたのは黄前ちゃんだけ。夏紀とはただ和解した仲良しさんという関係に留まっています。だからこそ、後の方ででてきたハッピーアイスクリームのシーンが逆に悲しく映ってしまいました。つらい。

 

そんな大いなる不満はあるものの、久石説得のくだりは最高と言わざるを得ませんでした。黒沢さんの声遣い、怖いほどハマった演技に全て持って行かれました。ちなみに、あの雨のシーンでの最萌ポイントは、悪態距離置きモードに入っているはずの久石なのに「黄前先輩」呼びに戻っておらず、内心では完全に甘えて自分の内心を曝け出したいというのが透けて見えるところです。

久石ほんとうに久石そういうところだぞ久石。サイゼで彩り野菜のミラノ風ドリアと一緒にメロンソーダ頼んじゃうあたりあざとすぎる石奏。

 

■演奏シーン

親の声より聴いたリズのコンクール編成ver.。まさか通しで全部やるとは思っていなかったので圧巻です。リズ時空を通っていないであろう傘木希美ノーマルエンド後の彼女が奏でるソリはそつなく、覚醒みぞれを支えていたように思いました。(みぞれの360度ぐるぐるシーンは笑うしかなかった。今回、みぞれはシリアスシーンに被せるようにこっそりいろいろやってて楽しそうでしたね)

その他、(ユーフォの影響でつい先日ファゴットを買ってしまった私としては)ダブルリードの会ファゴット勢が、第三楽章の入りの小節がしっかり画面に映っていたのが地味にうれしかったです。

 

演奏後、結果発表のところで部長が最後まで部長をやり遂げたところを、夏紀のフォローを含めてしっかり書いてもらえて大満足でした。原作(短編集)で「一年間、部長じゃない時間がなかった」と書かれていたとおり、本作ではまったく弱音を見せなかった吉川優子、マジ格好良かったです。(マジエンジェルノルマも達成してくれましたしね)

 

そしてエピローグ。

「そして、次の曲が始まるのです──」
この言葉が発せられることはありませんでした。(あとから知ったのですが、本作はドキュメンタリ風に作るべく、モノローグを一切使わないという意思が初めからあったということでした。でもそれはそれとして……)

黄前部長として、自ら動いていく立場になった久美子がこの言葉を発することなく幕が降りたことに勝手に意味を見いだして、私は心を打たれました。

 

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以下、箇条書きにて。

 

黄前久美子

人間関係に疎かったり鋭かったりする彼女の心根が遺憾なく発揮されていました。自分周りのことは見えていないこともあるけれど、問題の本質を突くことができる洞察力とふんわりとした人柄で、今回もまたたくさんの部員を救っていました。

しかし、奏を説得するために駆け出したときの声の凄まじいこと。予告でもその断片は聞こえていましたが、あの想いを通して聞いたときの破壊力たるやないですね。報わないかもしれない努力にも意味がある……なんて、あの頃だからこそ信じられる想いに、我々は遠くから目を細めるしかできないのです。あんなことを全力で言ってくれる先輩がいてくれて久石奏本当にお前は幸せなんだぞ、分かっているのか久石奏。

 

・夏紀先輩

フォローポジションの塊。相方のツッコミ役に徹していて、表に出ることは少なくとも存在感を示してくれた僕らの副部長。オーディションのシーンは黄前ちゃんに役を奪われてしまってなつかな成分が足りなくてつらい。でも二人で映っているだけで心が登りつめてしまうから大丈夫です。
結果発表後に部員のフォローに回ったシーンが描かれるのは今回が初めてですが、そこに当たり前のように居てくれた彼女のおかげてこの年の吹奏楽部は回っていたんだなと思ってしまってもうダメでした。
夏紀先輩は、一期から比べて最も変わった人間の一人です。オーディションの結果発表、『本気でやったからこその怖い瞬間』にたどり着くことができた奇跡を想って僕は泣きます。 

・久石奏

コロコロと表情が変わるし感情を隠しきれてないしファミレスでメロンソーダ頼んじゃったりするお前、久石聞いているのか久石。上映開始直後に久石奏が映る度にウメボシ大名みたいな顔をしながらスクリーンを見上げていたのでほんとにほんとに久石奏。どうしてこんなかわいいの権化みたいな人間がユーフォに出てきたのか本気で分からない。久石奏のことを知りたい。久石……。


そんな久石奏、雨宮天さんの演技が終始輝いていましたね。好きです。
スカートの長さも首を傾ける角度もすべて計算しつくしているくせにメンタル弱すぎてすぐに露呈してしまうポンコツ感、人をバカにするのもいい加減にしろよ久石。
外から見たらありきたりに見えるかもしれませんが、先輩後輩の関係による努力の否定って心の奥に根を張る痛みなんだと思います。だから、一度は認めた久美子先輩に失望を覚えた。
でも、ああやってジト目を向けることができる先輩が側にいることに甘えてるんですよね。それがどれだけ幸せなことか、あの時点での久石は気付いていないんですよね。その迂闊さが好きです。
黄前ちゃんによって救われてしまった彼女が、これから北宇治とどう関わっていくのか楽しみでなりません。久石奏は、あすか先輩、夏紀先輩と黄前ちゃん、その系譜をしっかりと受け継いだ『北宇治の精神を体現したキャラクター』だと思っています。
「頑張って何になるんですか?」その答えは見つからないかもしれない。でも、すべてが終わってから振り向いたとき自分に得たものがあったと、彼女なら気付けるはずです。だから今はただ先輩の背を見ながら成長していってほしい。彼女には心から「頑張れ」と言いたい気持ちにさせられました。頑張れ、久石奏。

これからの成長と、最終楽章の久石先輩に心から期待しています。期待しているからな久石。

・しゅうくみ

秀一カワイソス……原作では部長就任時に発生したヘアピン返却が合宿中に改変されていましたが、概ねお変わりなく。
どうでもいいですけど、20:03に送った謝罪メッセージに久美子が返信したのは20:17。それまでの14分間、がんばって耐えた彼を称えてあげたいと思いました。

・くみれい

距離、近くないですか?のシーン直後に駅のホームでしゅうくみの距離が遠すぎて本当に可哀想でした。義務デートのあとの逢い引き、展開的にはまったく関与してないのに特別空間展開してくれてありがとうございます。

黄前ちゃんがこれからどんな選択をしても、あの場所に戻ってくることができるのが彼女を支えてくれるんだなと、改めて思いました。「なんか吹いてよ」の破壊力やばいですよね。

 

・あすか先輩

原作読んでないと違和感しかなさそうなあのシーン(※手紙のくだり)をわざわざ入れたってことは、この時空の先の話をやるってことですよね?6月の発表を楽しみにしています。

 

・のぞみぞ

ファンサービスありがとうございました。
サンフェス衣装で踊ったりスナイパーやったりとフリーダム鎧塚さん、楽しそうでよかった。結局4人で行ったあがたまつり、あのシーンのフィルム欲しいです。

あと、帰りのバスのシーンでみぞれだけバスの中にいて、残りの3人が外で楽しそうに話をしている描写がありましたけど、来年からの4人(みぞれ以外同じ大学)を示唆していてエグいなと思いました。

 

・佐々木梓

威圧感たっぷりのボレロとか、ファミレスのシーンでさりげなく後ろを走っていたりとか、さりげない存在感を見せつける強い女。

監督が舞台挨拶にて「彼女に注目してくださいね」みたいなことを言っていたらしく、これはもしかしてもしかするのか……と立華ガチ勢が大注目の2019年になりそうです。

・オープニング

『うまく行ってもダメになっても、それが私の生きる道』
これを最初に持ってくるの、メッセージ性強すぎて唸るしかない。すっごい応援歌。『最後まで見ていてね』そう歌っているこの曲が、明るい未来を示してくれる。

・エンディング

Blast!、良い曲ですよね。いままでのTRUEさんの曲で一番好きというか刺さりました。今年の定期演奏会で聴きたいなあ……。

 

■総評

尺が足りなくて勿体なかったり、なつかな不足が深刻でしたけど、概ね満足の本作でした。まったく関係ないですが、夏コミでなつかな本を出すのでもし覚えていたらよろしくお願いします(蛇足)。

 

「宇宙よりも遠い場所」13話感想および総評

今日もまた見てしまった。

何度見てもよいものは良い。

 

では、どこに作品の良さを見出したか。

その視点によって、受け取るものは全く違って映る。

例えば、本作を「努力の物語」と捉えたらどうか。『ろくに努力をせずに南極に行って、苦労を知らぬまま帰ってきただけ』と言う見方もできる。

でも、もし「友情と成長の物語」として見たらどうか。

互いが互いの欠けたところを補い、時に背中を押されて過去と向き合い、痛みを共有しながら前だけを向いて行く。言葉にするとありきたりな出来事を、隙のない構成と説得力を持った描写で描いてくれた、素晴らしい作品だと言える。

彼女らは、皆の足を引っ張ることもなく、かといって必要以上にお節介を焼いたりすることもなく助け合う。肝心なのは「必要以上に」というところで、話が佳境に入ったころ、彼女らは抱え込んでいた悩みと向き合わざるを得なくなる。そんなとき、当事者以外の3人は全力で踏み込んでいく。本人の自主性を尊重する気遣いもできると描いた上で、「必要とあらば」躊躇わずに助けに行ける。そんな関係にこそ尊さを感じる。だから、10~12話で、それぞれ結月、日向、報瀬に対して全力でお節介を焼くメンバーを清清しく感じられる。

 

以上を前置きとして、13話について。

荒ぶる波は去り、さざ波のような優しい余韻に包まれた話でした。

繰り返し語られる「よどんだ水」が解放され、走り出し、そしてたどり着いたのが13話なのだろうと思った。

 

本作の象徴とも言える「しゃくまんえん」。

はじめは報瀬の心のよりどころであり原動力だったそれは、シンガポールでは友人を助けるための支えとなり、そして南極での成長を得て一旦、役目を終えた。もしかしたら、観測所を建てるために使われるかもしれないし、戻ってきた4人と再会するかもしれない。どちらにせよ、すでに役目を終えたそれは日本に戻ることはない。報瀬の成長と共に在り方を変えてきたそれは、「置いてきた」のではなく、置いてくるという「使い道」だったと思いたい。

 

そして、特に心に残ったのは、4人の別れのシーン。

キマリが「ここで別れよう」と提案する。

この言葉の裏には、あるいは、結月が3人と1人で別れてしまうことに対する無意識の気遣いという意味もあるとは思う。でも、それ以上に、いつか来る「次」のために、4人の心を残しておくために必要な別れを切り出したというのは、大きな意味があるのではないかと思ったのです。

 

何かを始めたかった彼女。

10~12話と並び、キマリが答えを得るのがこのシーンではないかと考えました。Aパートでの報瀬との会話でも、何かを得て何かが変わったことの片鱗は見えていました。でも、それを「惜しくない別れ」「終わっても続いていく」というエールとして表現してくれたことで、これ以上ない清々しさを与えてくれました。

 

それなのに、そうやって視聴者の心をぐちゃぐちゃにしておいてからのめぐっちゃんは卑怯ですよ。よく見ると既読が一気についていて、もう帰ってくるのをずっと待ってたのがほんとうにいとおしい。この二人の関係がこれからどんな光に溢れているのか考えるだけで胸が一杯になりますよ。

南極と北極、地球上で最も離れた場所に立つことで二人の距離が縮まるという構図、完璧としか言いようがない。

 

以上、語りたいことは尽きないけれど、一番いいたかったことだけ残しておくことにします。続いてほしいと思う作品は数多くあれど、喪失感を感じさせず、そんなことを言っていたら(4人に)合わせる顔がないぜ、って思わせる作品はまこと希有でした。ありがとう、よりもい。